サクラに発生するてんぐす病の原因と防除方法

はじめに:「あの枝だけ花が咲かない」その正体がてんぐす病です

「桜の木をよく見たら、ほうき状に細い枝が密集している部分がある」
「その部分だけ春になっても花が咲かずに葉だけが出ている」
「これって何かの病気なの?」

てんぐす病に関するこういった疑問は非常に多いです。

てんぐす病はサクラで最も多く見られる病気のひとつで、意識して観察し始めると「あそこにもある、あそこにもある」と面白いように目に入ってくるほど、実はよく発生しています。

問題なのは、てんぐす病に侵された枝は一切花が咲かず葉だけが出ることと、放置しておくと周囲の枝にどんどん感染が広がり、最終的にはサクラが枯死することもあるという深刻な病気だということです。

このページでは、てんぐす病の特徴・原因・見つけ方から、正しい切除時期・方法・感染枝の処分・その他病害虫対策・道具選びまで、サクラのてんぐす病に関するすべてをお伝えします。

サクラの特徴とてんぐす病の関係:まず「なぜサクラがかかりやすいか」を理解しよう

■サクラはもともと病害虫がつきやすい木

サクラ(桜)はバラ科の落葉高木で、日本を代表する花木として全国に親しまれています。ソメイヨシノ・山桜・八重桜など品種も豊富で、春の開花時期には日本中を彩ります。

しかしサクラは病害虫がつきやすい木としても有名です。切り口から菌が入りやすく、傷がつくと腐れが広がりやすい性質があります。てんぐす病はその代表的な病気のひとつです。

■てんぐす病とはどんな病気か

てんぐす病は、枝の一部分が異常に変化し、ほうき状に細い小枝が密集して生えることが特徴です。まるで天狗が持つ「高下駄」や「羽うちわ」に見えることから「てんぐ巣病」と呼ばれます。

てんぐす病

てんぐす病

てんぐす病の病巣は周辺の枝の生え方と明らかに違い、コロニーを形成しているような異空間を感じられ、見慣れると発見しやすくなります。

その性質上、花はほとんど咲くことがなく葉だけが生えます。ですから花が咲いている春先に「そこだけ花が咲いていない枝の塊」を見つけたら、てんぐす病を疑ってください。

■てんぐす病が発生する原因

サクラのてんぐす病は、子嚢菌類のタフリナ菌(Taphrina wiesneri)の感染によって引き起こされます。この菌の胞子が風や雨によって飛散し、サクラの枝や芽に感染することで発症します。

日が当たらないほど枝の間隔が狭く葉が密集していると、特にてんぐす病は発生しやすくなります。これは、密集した環境がタフリナ菌の繁殖に適しているためです。適切な剪定で風通しと日当たりを確保することが、最大の予防策になります。

■てんぐす病はサクラ以外にも発生する

てんぐす病はサクラだけでなく、カンバ類・ツツジ類にも発生します。
ただし原因菌は樹種によって異なります。ツツジ類のてんぐす病は担子菌が原因、モミ類のてんぐす病ではさび病菌、キリてんぐす病ではファイトプラズマなど、てんぐす病は樹種によっても原因菌が違うようです。このページでは主にサクラのてんぐす病について解説します。

■放置するとどうなるか

てんぐす病を放置しておくと、枝葉が密集していたり感染している枝を残しておくことでどんどん増殖していきます。増えすぎた場合は枯死する場合もあり危険です。そのまま放置しているとてんぐす病に侵されてサクラが枯れる可能性があります。

庭のサクラを長く健全に育てるためには、てんぐす病の早期発見・早期切除が最大の対策です。

てんぐす病を考慮したサクラの剪定時期:「春に発見・冬に切除」が正解

■発見に最適な時期:花の咲いている春(3~4月)

てんぐす病の病巣には花が咲きにくいので、花が咲いている最中が発見に最も適した時期です。周囲の枝に花が咲いているのに「そこだけ花が咲かずに葉だけが出ている」という箇所を見つけることができます。

サクラの花が咲いている時期(3~4月頃)に木全体を観察して、てんぐす病の病巣がどこにあるかを確認・記録しておくことが最初のステップです。

■切除に最適な時期:葉が落ちた冬期(11~2月)

てんぐす病の病巣を春に発見しても、その時期に切除することはおすすめしません。

なぜなら、てんぐす病の病巣を春(花が咲いている時期)に切除すると、タフリナ菌の子嚢胞子を飛ばす可能性があるからです。胞子が飛散すると周囲の健全な枝に感染が広がります。

病巣の場所を確認したら覚えておいて、葉が落ちた冬期(11~2月頃)に枝元で切除することをおすすめします。

冬期に切除するメリットは3つあります。

・胞子が活動しにくい時期なので感染拡大のリスクが低いこと、
・葉が落ちて枝だけになるので病巣を確認しやすいこと、
・サクラが休眠中なので切り口へのダメージが最小限になることです。

■「春に発見・印をつけ・冬に切除」という流れを覚える

サクラのてんぐす病管理の基本的な流れはこうです。

・春の花の時期(3~4月)に木全体を観察して病巣の位置を確認します。
・病巣のある枝に目印(目立つ色のリボンや荒縄など)をつけておきます。
・夏と秋は観察を続けますが切除は待ちます。
・冬(11~2月)に目印のついた病巣枝を枝元から切除して処分します。

この流れを毎年繰り返すことで、てんぐす病の感染拡大を防ぎながらサクラを守ることができます。

■サクラの通常の剪定時期との関係

サクラの剪定で一般的にベストとされる時期も、てんぐす病の切除と同じ冬期(11~2月)です。
この時期にてんぐす病の切除と通常の枯れ枝・混み枝の整理を合わせて行うと、1回の作業で両方をこなすことができて効率的です。

てんぐす病を発生させない剪定方法:切除の正しいやり方と予防

■切除の基本:病巣の枝元から切る

てんぐす病の防除で最も効果的な方法は、感染した枝を病巣の枝元(分岐点)から切除することです。病巣の途中で切っても菌が残り、そこから再び発生することがあります。必ず病巣よりも少し下の健全な部分(枝の分岐点)から切り取ってください。

切除後は必ず切り口に癒合剤(トップジンMペースト等)を塗布してください。サクラは切り口から菌が入りやすい木なので、この処置は絶対に省けません。

■切除した枝は必ず焼却処分か密封ゴミへ

切除したてんぐす病の枝は、地面に放置することは絶対に避けてください。残っているタフリナ菌の胞子が飛散して周囲に感染が広がります。

切除した感染枝はビニール袋に二重に密封してから燃えるゴミに出す、もしくは焼却処分してください。これが感染拡大を防ぐために最も重要な処分方法です。

■てんぐす病を発生させない予防的な剪定

てんぐす病の予防策として最も効果的なのは、定期的な冬期剪定で枝葉の密度を適切に保ち、風通しと日当たりを確保することです。

日が当たらないほど枝が密集していると、タフリナ菌が繁殖しやすい環境になります。混み合っている枝や交差している枝を間引く「透かし剪定」を毎年の冬期剪定で実施することが、てんぐす病の最大の予防策になります。

また初期の段階でてんぐす病を発見して切除することが、病巣を増やすことなくサクラを守る最適な方法です。

■【忙しい方向け】てんぐす病対策の最低限のルーティン

毎年これだけやれば大丈夫です。

春(3~4月)の花の時期に「花が咲いていない枝の塊」を探します。見つけたら目印をつけます。冬(11~2月)に目印の枝を枝元から切除して密封ゴミへ。切り口に癒合剤を塗ります。このルーティンを毎年続けることで、てんぐす病の感染拡大を防げます。

失敗した時のリカバリー:「やってしまった!」時の対処法

■春(胞子飛散期)に切除してしまった場合

春に病巣に気づいてすぐに切除してしまった場合、胞子が飛散した可能性があります。切除した枝は地面に放置せず、すぐにビニール袋に密封して処分してください。

切り口には必ず癒合剤を塗ってください。周囲の健全な枝を観察して、翌春に新たなてんぐす病の病巣が発生していないかを確認してください。

■てんぐす病を放置し続けて木全体に広がってしまった場合

長年放置しててんぐす病が木全体の多くの枝に広がってしまった場合、個人での対処に限界があります。病巣が多い場合は全部を1度に切除すると木への負担が大きくなりますので、数年かけて少しずつ切除することをおすすめします。

広範囲に感染が広がっている場合は専門の造園業者や樹木医に相談してください。

■切除後に別の枝にてんぐす病が発生した場合

切除後に別の枝でてんぐす病が発生した場合、胞子の感染が先に起きていたか、切除の際に胞子が飛散した可能性があります。冬の切除時期を守ること(春の切除を避けること)が再発を防ぐ最重要のポイントです。新たに発見した病巣には目印をつけて、次の冬期に切除してください。

てんぐす病以外の病害虫対策:サクラを守るために知っておきたいこと

■①アメリカシロヒトリ:葉を食い荒らす食害虫

サクラに発生する害虫の中で最も多く見られるのがアメリカシロヒトリです。7~9月に白い天幕状の巣を作って葉を集団で食い荒らします。大量発生すると光合成が妨げられ樹勢が落ちます。

白い天幕状の巣を早期に発見したら、枝ごと切り取って袋に密封して処分します。分散してしまったらスミチオン乳剤1,000倍液を散布して駆除します。

■②コスカシバ:幹の中を食い荒らす害虫

コスカシバの幼虫がサクラの幹や太い枝の内部に潜り込んで食い荒らします。幹の表面に茶色い粒状の糞(フラス)が出ていたりヤニが出ている場合は要注意です。

発見したら針などで樹皮をめくって幼虫を取り出して捕殺し、傷口に癒合剤を塗って保護します。

■③アブラムシ:春の新梢に群がる害虫

春の新梢にアブラムシが群がることがあります。大量発生すると新梢の伸びが悪くなりすす病を誘発します。スミチオン乳剤を散布して駆除します。

■④腐朽菌(キノコ):幹を内部から腐らせる

サクラの枝を切るとその付近に腐朽菌が付着し、キノコが生えてきて枯れを助長します。幹にキノコが生えてきたら内部腐朽が進んでいるサインです。切り口への癒合剤塗布を徹底することが予防になります。この状態になったら専門家に相談してください。

■病害虫共通の予防策

定期的な冬期剪定で枝葉の密度を適切に保ち、風通しと日当たりを確保することが最大の予防です。「適切な剪定がすべての病害虫予防につながる」という考えが、サクラ管理の基本です。

おすすめの道具:プロが実際に使うものと選び方

■剪定ばさみ(細い病巣枝の切除に)

てんぐす病の細い感染枝を枝元から切除する際に剪定ばさみが活躍します。切れ味の良いものを選ぶことが最重要です。切れ味が悪いと切り口が潰れて、そこから菌が入りやすくなります。おの義(推奨)アルス・岡恒などの国産メーカーの3,000~8,000円程度のものが信頼できます。

病気の枝を切った後の消毒が絶対必要: てんぐす病の枝を切った後は、必ずアルコール(消毒用エタノール等)で刃を拭いてから次の枝に使ってください。ひとつの工具から別の枝に菌を広げないための大切な作業です。刃に残った菌を次の切り口に持ち込むことが感染拡大の原因になります。

■剪定ノコギリ(太い病巣枝の切除に)

てんぐす病が太い枝に発生している場合はノコギリが必要です。折りたたみ式の剪定ノコギリがコンパクトで持ち運びやすく便利です。ノコギリも使用後はアルコールで消毒してください。

■癒合剤・トップジンMペースト(切り口保護に必須)

てんぐす病の切除後に切り口への癒合剤塗布は絶対に省けません。サクラは切り口から菌が入りやすい木なので、切除した後すぐに切り口全体に厚めに塗ってください。チューブタイプが塗りやすくおすすめです。

■ビニール袋(感染枝の処分に)

切除したてんぐす病の枝を密封するために、大きめのビニール袋を複数枚用意しておきましょう。地面に落としたまま放置しないよう、切除と同時に袋に入れる習慣をつけてください。

■目印用のリボン・荒縄(病巣位置の記録に)

春に発見したてんぐす病の病巣の枝に目印をつけておくと、冬の切除時に見つけやすくなります。目立つ色のリボンや荒縄を病巣の枝に結んでおくだけで、冬になっても葉が落ちた枝の中から正確に病巣を見つけることができます。

ゴミの処分とマナー:感染枝の処分には特別な注意が必要

■てんぐす病の感染枝は必ず密封処分

てんぐす病の感染枝を処分する際は、必ずビニール袋に二重に密封してから燃えるゴミに出してください。これが最も重要な処分方法です。地面に放置したり、開放した状態でゴミとして出すと胞子が飛散して周囲のサクラに感染が広がります。

可能であれば焼却処分が最善ですが、焼却設備がない場合は二重密封のゴミ処分で対応してください。

■通常の剪定ゴミとは分けて処分する

てんぐす病の感染枝は、健全な枝葉と絶対に一緒にしないでください。それぞれ別の袋に分けて処分することが感染拡大防止の基本です。

■ご近所への配慮

サクラの枝がお隣の敷地の上空に越境している場合は、剪定前に一声かけてください。特にてんぐす病が発生しているサクラの場合は、お隣のサクラへの感染リスクがあることを伝えることがご近所への配慮です。

プロのホンネ:自分でやる限界と業者に頼む目安

木の高さが3mを超えている場合: 高い位置の病巣確認や切除は転落リスクがあります。3mを超えたら専門業者に依頼してください。

てんぐす病が木全体の多くの枝に広がっている場合: 一度に全部を切除すると木への負担が大きくなります。専門の造園業者や樹木医に相談して、計画的な防除計画を立ててもらうことをおすすめします。

幹にキノコが生えていたり、空洞がある場合: 内部腐朽が進んでいる可能性があり倒木の危険があります。すぐに専門家に診断してもらってください。

よくある質問Q&A

Q. てんぐす病はどうやって見つければいいですか?

A. 春の花の時期(3~4月)が最も発見しやすいです。周囲の枝に花が咲いているのに「そこだけ花が咲かずに葉だけが出ている塊」を見つけてください。冬(葉が落ちた後)は、枝がほうき状に密集して生えている部分を探すことで発見できます。

Q. てんぐす病を春に発見しました。今すぐ切っても大丈夫ですか?

A. 春(花の咲いている時期)の切除は、タフリナ菌の胞子を飛散させる可能性があるためおすすめしません。病巣の場所に目印(リボンや荒縄など)をつけておいて、葉が落ちた冬(11~2月)に切除することをおすすめします。

Q. てんぐす病の切除後に切り口から腐れが広がっています。どうすれば?

A. 癒合剤(トップジンMペースト等)を厚めに塗ってください。腐れが広範囲に広がっている場合は専門の造園業者や樹木医に相談してください。腐れが幹まで及んでいる場合は倒木の危険もあります。

Q. てんぐす病は薬剤で治療できますか?

A. 現時点で感染した部分を薬剤で完全に治療する方法は一般的に知られていません。感染枝の切除が最も確実な防除方法です。発症を予防する農薬(石灰硫黄合剤など)を休眠期に散布することで予防効果が期待できますが、すでに感染した枝には切除が必要です。

Q. てんぐす病が発生したサクラは、隣のサクラにも感染しますか?

A. 感染する可能性があります。タフリナ菌の胞子が風で飛散して近くのサクラに感染することがあります。特に春(胞子飛散時期)の切除を避け、冬期に密封処分することで感染拡大を防ぐことができます。

サクラのてんぐす病は「春に発見して目印をつける」「冬(11~2月)に枝元から切除して密封処分する」「切り口には必ず癒合剤を塗る」「使った道具はアルコールで消毒する」という4つのポイントを守ることで、確実に防除できます。早期発見・早期切除がサクラを守る唯一の方法です。

このページがサクラとてんぐす病の対策の参考になれば幸いです。

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