はじめに:「うちの桜に実がなったことがない」その理由、実は明快です
「庭のサクラが毎年きれいに咲くのに、実がついているのを見たことがない」「さくらんぼの木を植えたのに全然実がならない」「サクラの実って食べられるの?毒はないの?」サクラの実に関するこういった疑問はとても多いです。
サクラの花が散った後に何か実がなっているのを見たことがある方もいれば、全く気づかなかったという方もいるでしょう。花が散った後の庭木のことはあまり気にしない方が多いので、実がついていても見過ごしていることも多いのです。
このページでは、サクラの実がなる条件・食べられるかどうか・毒性の有無・実がつかない主な原因とその対策・病害虫対策まで、サクラの実に関するすべてをお伝えします。
サクラの木の特徴と実について知っておくべきこと
■サクラの実は条件次第でなることがある
まず結論から言うと、サクラの木には条件が揃えば実がなります。ただし、その条件が揃わないことが多いため「実がなったことがない」と感じる方が多いのです。
サクラには「自家不和合性(じかふわごうせい)」という特性があります。これは「同じ木の花粉では受粉できない」という性質です。つまり、他の違う種類のサクラの花粉が運ばれてこないと受粉ができず、実がなりません。他の品種の花粉によって初めて受粉し実がなる、典型的な「他家受粉」の木なのです。
ですから近くに違う種類のサクラがあれば実がなる可能性はあります。公園や街路樹など、近くに複数のサクラがある環境では実がなりやすいです。
■サクラの実の見た目と大きさ
サクラの実の形は丸型で、平均的な大きさは外観1cm前後です。熟すと外観が黒紫色になります。私たちがスーパーで見るさくらんぼ(セイヨウミザクラ)とは別の種類で、大きさも見た目もかなり違います。
「小さいサクランボ!」と興味を持ちやすい見た目をしていますが、後述するように未熟な緑色の実には注意が必要です。
■サクラの実は食べられるのか?鳥は食べるけど人間は?
サクラの実を鳥が食べているところをよく見かけます。鳥は赤い実が好きなようで、サクラだけでなく、あらゆる赤い実を食べに来ます。
では人間はサクラの実を食べられるのでしょうか。結論から言うと、黒紫色に完熟した実であれば食べることができます。
ただし、味は「おいしい」とは言えません。渋みのある酸味があり、苦みも強いです。実際に食べてみたことがありますが、正直なところ「食べられるけど美味しくはない」というのが正直な感想です。
ただ、黒く熟した実をジャムにするとおいしいという話もあります。採取するなら完熟した黒紫色の実を使うとよいでしょう。オオシマザクラの実はえぐみがあって甘味はほとんどありませんが、ジャム加工には向いています。
■サクラの実の毒性について知っておくべきこと
特にお子さんがいるご家庭で気になるのが毒性の問題です。「子供が知らずに小さいさくらんぼだと思って食べてしまったら?」という心配は当然です。
これについての回答は以下の通りです。
黒紫色に完熟した実:毒性はありません。食べても大丈夫です。おいしくはないですが、栄養素も豊富に含まれており、老化防止にもなるという話もあります。
緑色の未熟な実:青酸性の毒性があります。これは要注意です。鳥も緑色の実は食べません。お子さんが誤って口にしないよう注意が必要です。
まとめると「黒紫色になれば食べても安全、緑色の時は食べてはいけない」です。お子さんやペットが庭で遊ぶ環境では、緑色の実が落ちていたら拾い集めておくことをおすすめします。
■ソメイヨシノの実について
日本で最もよく見られるサクラの品種であるソメイヨシノは、サクランボのように赤紫色の実らしいものをつけることがあります。
ただしソメイヨシノはほぼ同じクローン(接ぎ木で増やされた同一品種)が全国に植えられているため、自家不和合性の性質により実がなりにくい品種です。公園などで複数のソメイヨシノが植えられていても、すべて同じクローンであれば互いに受粉できないため実はなりません。
■サクランボ(セイヨウミザクラ)と普通のサクラの違い
私たちがスーパーで買う「さくらんぼ」はセイヨウミザクラという品種です。観賞用の桜とは別の種類で、実の大きさ・甘さ・品質が全く異なります。
観賞用の桜の実は食べられますが、スーパーのさくらんぼのような美味しさは期待できません。「桜が咲いているからさくらんぼも採れる」という期待は残念ながら実現しません。
実がつかない原因と対策:4つの主な理由
■原因①:剪定のやりすぎや間違った時期の剪定で花芽がなくなる
さくらんぼ(セイヨウミザクラ)の木なのに花が咲かなかったり、花は咲いても実がつかないことがあります。その原因のひとつが間違った剪定です。
間違った剪定時期に剪定してしまうと花芽がなくなり、花芽の数が少なくなったり花が咲かないことがあります。
具体的な間違いは、夏の花芽が分化する前に深く剪定してしまうことです。この時期に剪定すると、花芽にいくはずの栄養が葉芽にいってしまい、来年の花の数が少なくなる可能性が高いです。
対応策として、花芽が形成された後の9月から10月以降に剪定すると、来春に咲く花の数を減らすことがありません。 ただしその際に枝をすっかり切ってしまうと、せっかく形成された花芽ごと切ってしまうことになりますので、樹形を考えて混み合っている枝や不要な枝を整理する剪定をした方がよいです。
■原因②:自家不和合性なので1本だけでは実がならない
これがさくらんぼの実がならない最も多い原因です。
桜の仲間は「自家不和合性」という特性があり、他の品種の花粉がないと受粉しません。つまり1本だけ植えていても実はなりません。
さくらんぼの木から実を取りたいときは、佐藤錦というサクラの種類とナポレオンというサクラの種類など、違う種類のさくらんぼの木を植えないと、一般的によく見るさくらんぼの実をつけることはできません。
対策:今植えてある木と別品種のさくらんぼの木をもう1本植えることが解決策です。 受粉樹として相性の良い品種を選ぶことが重要で、購入する際は苗木販売店に「受粉樹として合う品種」を確認してから購入してください。
■原因③:木が若い場合は実がつきにくい
サクランボの実がならないのは木が若いことも原因のひとつです。植えてから3~5年は実がつかないことが多いです。
若い木は花が咲いても実をつけるだけの樹体の充実が追いついていないことがあります。木が若いのであればあと数年待ってみるとよいです。一本しか植えていないのであれば、今植えてあるものと別品種のさくらんぼの木をもう1本植えてみるとよいです。
実のなる木には肥料も与えておいた方がよいかもしれません。初夏にリン酸分を含む肥料を根元にまくと良いです。リン酸は実のつきをよくする効果があります。
■原因④:気象条件や病害虫により実がならない
果樹にとって天候は大きく関係します。受粉期にうまく受粉できる天候が続いてくれたり、受粉できてもその後の天候が悪ければ生育不良になります。
雨にあたると実が割れてしまうことも多くあるようで、山形県がさくらんぼで有名なのは「収穫期に雨が少ない」という理由があるほどです。
また、果樹には病害虫が発生しやすく生育の妨げにもなります。うまく実がついても最後の最後に鳥に食べられてしまうことも多いようです。
病害虫対策:サクラにつく代表的な病害虫と対処法
■①てんぐ巣病:実がならない・花が咲かない最大の病気
サクラで最も注意すべき病気がてんぐ巣病です。感染した枝の一部からほうき状に細い小枝が密生して丸く盛り上がったかたまりになる伝染病で、放置すると周囲の枝へも感染が広がります。感染枝では花が一切咲かず葉だけが出るため、当然実もつきません。
花の時期に「そこだけ花が咲いていない」箇所があれば疑ってください。発見したら春の芽出し前(2~3月)に感染枝を枝元から切除して焼却処分または密封ゴミへ。切り口には必ず癒合剤を塗ります。
■②コスカシバ:幹の中を食い荒らす害虫
コスカシバの幼虫がサクラの幹や太い枝の中に潜り込んで食い荒らします。幹の表面に茶色い粒状の糞が付いていたり、ヤニが出ている場合はコスカシバの被害を疑ってください。
被害部分の樹皮をめくって幼虫を取り出して捕殺し、傷口には癒合剤を塗って保護します。
■③アメリカシロヒトリ:葉を食い荒らし樹勢を落とす
7~9月に白い天幕状の巣を作って葉を食い荒らします。発見したら枝ごと切り取って袋に密封して処分します。分散してしまったらスミチオン乳剤を散布して駆除します。
葉が食い荒らされると光合成が妨げられ樹勢が落ち、花芽形成や実のつきにも影響が出ます。
■④アブラムシ:花芽・新梢に群がる害虫
春の新梢や花芽にアブラムシが群がることがあります。花芽が傷んで開花不良・結実不良になることがあります。スミチオン乳剤1,000~1,500倍液を散布して駆除します。
■⑤鳥による食害:実が完熟前に食べられる
サクラの実が色づき始めると鳥が食べに来ます。鳥による食害を防ぐためには防鳥ネットを張ることが最も効果的ですが、大木の場合は現実的ではありません。家庭でさくらんぼを楽しみたい場合は、鉢植えで管理して室内または覆いの下に置くことを検討してみてください。
病害虫共通の予防策: 定期的な適期剪定で枝葉の密度を適切に保ち、風通しと日当たりを確保することが最大の予防です。
よくある質問Q&A
Q. 庭のサクラに小さな実がついています。食べても大丈夫ですか?
A. 黒紫色に完熟した実であれば食べても毒性はありません。ただし緑色のうちは青酸性の毒性がありますので食べないでください。完熟した実は酸みと渋みがあり美味しいとは言えませんが、ジャムにするとおいしいという話もあります。お子さんが緑色の実を口にしないよう注意してください。
Q. さくらんぼを収穫したいのですが、どの品種を2本植えればいいですか?
A. 佐藤錦とナポレオンの組み合わせが代表的です。他にも高砂・紅秀峰・南陽など品種は豊富にあります。苗木販売店で「相性の良い受粉樹」を確認してから購入することをおすすめします。2本の木が近くにあれば(目安として10m以内)、ハチなどの昆虫が花粉を運んで受粉してくれます。
Q. ソメイヨシノに実がなりませんが、何か対策はありますか?
A. ソメイヨシノはほぼ同一クローンが全国に広まっているため、近くにソメイヨシノしかなければ自家不和合性により実はなりません。近くに別種のサクラ(ヤマザクラ・オオシマザクラなど)がある環境では実がなることがあります。観賞用のソメイヨシノへの実のなりを期待するよりも、さくらんぼ専用の品種(セイヨウミザクラ系)を別に植えることをおすすめします。
Q. 植えて5年になるさくらんぼの木に実がなりません。なぜですか?
A. 考えられる原因が複数あります。1本しか植えていない場合は受粉できないため実がなりません(別品種をもう1本植えてください)。剪定時期が間違っている場合も花芽がなくなります(花芽が形成される夏の前後の深い剪定は避けてください)。また気象条件(受粉期の天候不良)や病害虫による被害も考えられます。これらを一つずつ確認してみてください。
Q. てんぐ巣病の枝を切ったらそこから実がなりますか?
A. てんぐ巣病に感染した枝を切除して健全な枝が残れば、その枝から翌年以降に花が咲いて実がなる可能性があります。ただし切除後は切り口に必ず癒合剤を塗って保護してください。また切除した感染枝は焼却処分か密封ゴミに出し、地面に放置しないでください。菌が広がって他の枝にも感染します。
Q. 初夏に与えると良い肥料とはどんなものですか?
A. リン酸分を多く含む肥料がおすすめです。「花・実用」と書かれた肥料や「リン酸・カリウム配合」の肥料を根元にまいてください。窒素の多い肥料は葉ばかりが茂って実がつきにくくなりますので注意してください。施肥は根元から30cm程度離した場所に均等にまきます。
Q. 鳥がさくらんぼを食べてしまいます。防ぐ方法はありますか?
A. 最も確実な方法は防鳥ネットです。実が色づき始めたら木全体をネットで覆うことで鳥の食害を大幅に防げます。大きな木には現実的ではありませんが、小さい木や鉢植えなら対応しやすいです。また光を反射するテープや風に揺れるCDを枝に吊るす方法も一定の効果があります。ただし鳥は賢いので慣れてくると効果が薄れることもあります。
Q. サクラの実を食べて体調が悪くなることはありますか?
A. 黒紫色に完熟した実であれば食べても問題ないとされています。ただし渋みと酸みが強いため、大量に食べると胃腸の具合が悪くなることがあるかもしれません。食べてみたい場合はごく少量から試してみてください。緑色の未熟な実は青酸性の毒性がありますので絶対に食べないでください。
サクラの実について「なぜならないのか」「食べられるのか」「どうすれば実がなるのか」という疑問は多いですが、答えはシンプルです。「自家不和合性があるため1本では実らない」「完熟した黒紫色の実なら食べても安全だが緑色は危険」「適切な剪定管理と2本の異品種植えで実がなる確率が上がる」この3点を覚えておくだけで、サクラの実にまつわる疑問はほとんど解決します。このページがサクラの実への理解を深める参考になれば幸いです。





